綿矢りさ『蹴りたい背中』を読みました。言わずと知れた芥川賞受賞作です。しかし内容は言わずと知れている訳ではない。読書に親しみのなかった当時の僕は親父の背中を蹴りたい反抗期の娘の話かなぁと、凡庸な想像を巡らせていたわけです。いま考えると、本当に凡庸な想像力ですね、泣きたくなります。
僕の凡庸さは、ひとまず置いといて、この作品は凡庸ではありません。『インストール』のときよりも(さらに)プロフェッショナルな文章を書くんだなと思いました。
主人公の抱いた「蹴りたい衝動」…これは「欲望」というよりも「欲動」と表現した方がしっくりくる。その感覚は感情というには動きを伴いすぎているから。
読み終えてみるとタイトルが見事だと気づく。例えば、これが「踏みたい背中」ではエロティックに偏りすぎてしまう。「蹴りたい」という言葉には拒絶のテイストを含みつつも、エロを連想させる響きがある。「蹴りたい背中」という欲動には、「好き」と「嫌い」だけでは言い表すことのできない割り切れない気持ちがある。嫌いだけど好き…「嫌よ嫌よも―」のように軽々しくない、もどかしくて複雑な感情を描いていると思う。
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